がん治療先進国アメリカと日本のがん治療の違いとは

がん治療 先進国アメリカと日本のがん治療の違いとは

がん治療 先進国アメリカの遺伝子治療


がんは日本人の死因の第1位であり、2人に1人は発症すると言われています。がんの基本的な治療は、手術、抗がん剤、放射線治療でしたが、最近では分子標的治療、遺伝子治療などの選択肢が増えてきています。日本では遺伝子治療に対して慎重であり、臨床で応用されるのはまだ先になる可能性があります。一方、アメリカでは世界的にがん治療で有名なMDアンダーソン病院などで遺伝子治療が行われています。しかし、分子標的治療も遺伝子治療も全てのがんが治る夢の治療ではなく、適応や効果などはまだ限定的です。
今回は日本とアメリカの がん治療 の違いについてまとめます。

遺伝子治療とは

最近20年間の間に、人のがんを引き起こす遺伝子(がん遺伝子)は次々に見つかり、100種類以上とも言われています。がん遺伝子は、もともと細胞の中で増殖や分化に関連する働きを持っているのですが、紫外線やウィルス感染、放射線などの発がん物質によって突然変異を起こしたり、入れ替わるなどしてがん細胞に姿を変え、無限に増殖を始めて正常細胞を圧迫していきます。遺伝子治療は、簡単に言うとがんの元になる遺伝子異常を減らしていく治療法のことです。例えば、本来は私たちをがんから守ってくれるようながん抑制遺伝子が働かないことでがん細胞が増殖してしまうので、代わりに正常に機能する遺伝子を導入し、がんを抑えるのに必要なタンパク質をつくらせます。
世界的に有名なMDアンダーソン病院などでは行われていますが、日本では保険が効かず自費診療で1回30-40万円など(クリニックによります)で行われています。日本で臨床応用(保険診療)されるためには、治験を行い安全性、有効性が確認されてからになるのでまだ先になりそうです。

アンジェリーナ・ジョリーさんの例

アンジェリーナ・ジョリーさんは、母親と母方の祖母が乳がんや卵巣がんで苦しんで若くして亡くなったため、自分の遺伝子検査を行い、乳がんの発症を予測する確率が87%, 卵巣がんは50%だったため予防的に両方の乳房切除を行いました。このニュースは、まだがんを発症もしていない乳房を切除したことで医療界でも一般の人々の間でも賛否両論でした。しかし、ここで重要なのは事前に遺伝子検査をして乳がんと本来戦うべき遺伝子に異常があることが明確にわかっており、この遺伝子は代々遺伝する可能性のあるもので実際に母親と祖母を亡くしています。遺伝子治療、がん治療が進んでいると言われているアメリカでも、現時点では発症して治療を行うよりも、発症前に予防的に切除した方が良いと判断されたのです。もちろん本人の意思は十分に尊重されています。今回は自分の希望で遺伝子検査を行っているため、保険でカバーされず約35万円かかったと言われています。アメリカでもまだ、先進的な検査や治療が一般の人の手の届くところにはないことがわかります。

黒木奈々さんの例

黒木奈々さんの場合は、胃がんの中でも進行速度が速く、転移する可能性も高く、長く生きられる可能性が低いスキルス胃がんと呼ばれる種類でした。
このスキルス胃がんの遺伝子に関しては、2014年に東大のチームが発見しRHOA(ローエー)遺伝子に変異があることを同定できました。世界でも初の発見であり、今までスキルス胃癌に大きな効力のある治療がなかったため今後の臨床応用に期待されています。RHOA遺伝子はもともと細胞運動や増殖制御に関わる遺伝子と言われており、今回発見された変異によってがんを促進することがわかりました。もしこの遺伝子の変異を修復できるような遺伝子治療を行えたら、スキルス胃癌で命を落とす人が減るかもしれません。今回の研究結果が出たのも最近であることから分かるように、黒木奈々さんの場合はすでに進行していたとのことですし悲しいですが、日本でもアメリカでも結果は変わらなかったと考えられます。

アメリカと日本の がん治療 の違い

アメリカと日本の医療の質が違うか、日本が遅れているかというと必ずしもそうは言えません。確かに先進的な遺伝子治療などを積極的に行っている点で、アメリカの方が良いかもしれませんが、その効果はまだ限定的です。それぐらいがんは難しい病気です。
ただアメリカは訴訟国家という背景もあり、医療においても相応の費用を払った分、標準化された医療を提供されるというように非常に合理的です。日本では質の良し悪しに直結するとは言いませんが、病院や地域によって差があるところは否めません。
また、大きな違いはがんに対してチーム医療が徹底しており、腫瘍内科医や放射線治療に詳しい医学物理士がチームに所属し、抗がん剤を専門としている医師がいるだけでなく、がん患者の看護を専門とする腫瘍看護師まで配属されています。日本では外科医や内科医が抗がん剤を扱っており、その科の抗がん剤には詳しくてもそれ以外は詳しくない可能性もあります。抗がん剤は副作用や適正量などの調整が難しく、専門性が求められるため、この点では日本もアメリカに倣う必要があるかもしれません。実際のアメリカのチームは、腫瘍内科医(抗がん剤治療専門)、外科医(手術)、病理医(がん細胞分析)、薬剤師(抗がん剤に詳しい)、腫瘍看護士(がん患者の看護)、医学物理士(放射線治療機器の専門)、ソーシャルワーカー(患者の相談のため)、がん登録士(患者の治療内容など詳細に記録する)で成り立ち、患者の治療方針のために意見を交換、検討をして治療にあたります。アメリカは緩和医療も徹底されており、がんの末期の患者に対して痛みの緩和や相談、看護などが充実していると言われています。日本は手探りな部分も多く、がん患者が満足のいく最期を迎えられているかは病院やスタッフにかかっている部分がまだ大きいです。

執筆監修:アメリカ在住 日本人医師 M.S
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